真実はいつも一つ
ある中学校に勤務していたころ、開かずのトイレがありました。
特別教室の間の渡り廊下のそばにあるトイレの扉には鍵がかけられていて、普段は利用することができませんでした。
故障中とかそういうことではありません。
ただ、使わないようにしていたのでした。
理由は七年勤務していた私はよーく知っていました。
でも、勤務の浅い先生たちや生徒たちは理由を知らなかったので、いつの間にかヘンな噂が流れ始めていました。
そのトイレで自殺した生徒がいて、血の跡が消えないから。
そのトイレを使うと呪われるので、立ち入り禁止にしているから。
そのトイレに入ると閉じ込められて二度と出てこられなくなるから。
などなど、学校の怪談ばりの噂が流れていました。
私は「そんなことないよ」と始めは軽く聞き流していたのですが、あまりにも子どもたちが真面目に怖がり始めたので、事実を説明することにしました。
真相はこうです。
そのトイレが使用禁止になった年の生徒たちはかなりやんちゃな子どもが多かったのでした。
授業中にお腹が痛くなったと言ってはトイレに行き、そのまましばらく帰ってこないこともありました。
それでもたいていは授業時間内には戻るのでした。
しかしある日、生徒が2人、授業に出ていないと連絡が入りました。
空き時間の先生方が校内を探しましたが、なかなか見つかりませんでした。
トイレも全部見たのですが、見つかりませんでした。
それでも、もう一度確認しようとその渡り廊下にあるトイレに行ったところ、そこに隠れていた生徒たちを発見したのでした。
そのトイレはちょっと隠れやすい構造になっていたので、分かりにくかったのでした。
彼らは単純にサボったらどうなるのか試したかったと言っていました。
当然思い切り叱られていました。
それ以来、そのトイレは平常時は使用禁止としたのでした。
参観日や学校祭、卒業式など、来客がたくさん来るときは開けていたのですが、生徒たちはそういう時は気付いていなかったようでした。
これを話して聞かせると口々に「なーんだ」と言われてしまいました。
なんだと言われても、そんなもんよ
これで噂はいったん収まるのですが、それでも生徒が卒業して入れ替わると、またこの噂は繰り返されるのでした。
現在はその校舎は建て替えられて例のトイレはなくなってしまいました。
だから、あのトイレの噂はもうないと思いますが、新しい学校にはそれなりにまた新しい何かが生まれているのかもしれませんね。
でも、その真相なんて気が抜けるようなものであることが多いのですよ。